うさぎの時代庵

時代小説、時代劇の作品感想を書いています。司馬遼太郎、海音寺潮五郎作品が大好き。新選組、幕末物が大好き。

「新選組 試衛館の青春」上・下 松本 匡代 サンライズ出版

タイトルの通り、新選組の面々の「青春」を描いた作品です。

 

松本さんには「夕焼け 土方歳三はゆく」という作品があって、読みたいと思うのだけれど、古本でも2万円近い価格がついていたので手が出せず、図書館にもないし。アマゾンでも最近は出回っていません。いつか読めればなーと思っています。

そんな松本さんが2012年に新たに新選組本を出版されました。あとがきを読むと、この作品を書くに至るまで、松本さんの人生にいろいろなことがあり、この作品は松本さんの心が思いっきり込められているのだと思いました。

 

ただ、この作品に、いつもの新選組ムードを期待しないでください。全然別モノです。別モノですが、とても切なく、優しい作品です。

 

試衛館時代の新選組の面々が、「新選組」になる前、京都で活躍するようになる前の、青春時代のお話です。剣劇シーンはほとんどなく、とにかく人と人のつながりというものを書いた作品です。

人情時代劇ともいうような。試衛館の面々を、オトナ組と、コドモ組に分けて、それぞれの思いを描いています。オトナ組は、近藤さん、土方さん、山南さん、です。コドモ組は、沖田総司斉藤一藤堂平助、です。中でも物語は、斉藤一を中心に、というか斉藤一の目線で進んでいきます。

 

試衛館時代の新選組の面々は、将来京にのぼって浪士を斬りまくるなんて想像もしていませんから、毎日の生活のやりくりや、家族のことや、恋や、剣の訓練や、日々雑多な出来事で時間が流れていきます。試衛館時代の日常生活を描いた作品という意味では、めずらしい新選組作品なのです。

 

ただ、私たちは、後々彼らがどういう運命をたどるか、知っているわけです。だから、切ないのです。近藤さんを支えて、仲良く何事も相談しあい尊敬しあう土方さんと山南さん。近藤さんと土方さんの関係性をよく表しているのが次の言葉。

しかし、この二人がどうなるのか、私たちは知っているわけです。幼い恋を大事にする藤堂平助。しかし、藤堂くんが二度と江戸に戻ってこれない、かわいい恋人との約束を果たせないことを知っているわけです。家族に愛され、可愛がられた斉藤一。一人娘の誕生に歓喜する近藤さん。しかし、近藤さんの最期がどうなるのか、私たちは知っているわけです。

歴史の結末をわかっている立場から読むと、この作品は、あちこちに「あー切ない」っていう箇所がたくさんあって。それに、京都時代の彼らを予感させる伏線があちこちにあるのです。

 

物語は、下巻で、斉藤一が江戸で人を斬り、京都に逃げて、だんだんと荒んでいくところから、影がさしてきます。しかし、おなじみの新選組の活躍までは描かず、京都に行き、斉藤一を土方さんたちが探し出すところで終わっています。

 

この後のお話を読んでみたい気もしますが、かなり切ない展開になるとわかっていますから、ここで終わることがよかったのかもしれない・・・とも思います。