「試衛館の青春」のその後ともいうべきこの作品。驚きました。こんな新選組本読んだことない。これはユーレイの語る新選組なのです。死んでしまった後の山南さんや藤堂平助くんや、沖田総司くんや。死んでしまった後、その気持ちを語るのです。こういう切り口ですか!とびっくりしました。
でも、このやり方で、私たちは、山南さんや、平助くんや、総司くんの、本音というか、本当はどう思っていたのか、という気持ちを知ることができるのです。新選組好きなら、一度は思ったはず。脱走事件を起こして死んだ山南さん。どう思っていたのだろう?どういう気持ちで切腹したのだろう?山南さんに聞いてみたい・・・。
伊東甲子太郎について新選組から分離し、試衛館の面々と袂を分かった藤堂平助。そして油小路の決闘で闘死してしまった平助。平助くんはどういう気持ちで伊東さんについていったのだろう?その伊東さんを、昔の仲間に殺され、どういう気持ちで油小路に走ったのだろう?平助くんは何を考えていたの?試衛館の仲間のこと、どう思っていたの?それを平助くんに聞いてみたい。
労咳に倒れ、仲間から離れて一人死んでいった沖田総司くん。さみしかったよねえ。悔しかったよねえ。本当は泣きたかったよねえ?そう総司くんに問いかけてみたい。
そんな気持ちに、この本は一つの答えをくれます。ユーレイたち(総司くんはその時完全にまだユーレイになっていませんけど)が語ってくれるのです。ユーレイっていうと、おかしいかな。彼岸へいった人々の気持ちのようなもの、ですね。
こういう形で新選組の面々の気持ちを書いた本って、初めてですよね。
もちろん、生きている人たちも語っています。土方歳三様や斉藤一が。
私はこの本のクライマックスは、二つあると思います。
一つは、山南さん脱走の本当の理由が明かされる章。そうだったのか・・・と、「試衛館の青春」であれほど二人三脚だった土方歳三様との決別はこういう背景があったのか、と、松本さんなりの答えが用意されています。
もう一つのクライマックスは、斉藤一と沖田総司の別れの章。タイトルが「総司!」ですからね・・・。もう、この「総司!」がすべてを語っているでしょう。この章は号泣です。労咳に倒れた総司くんを千駄ヶ谷に見舞う斉藤一。やせ衰え、見る影もない総司の姿に、一は「今の総司にしてやれることなんて何もない。悔しいよ、総司。俺は悔しい」と思い、つい「俺に何かしてほしいことはないか?俺にできることなら、何でもしてやるぞ」と言ってしまうのです。でもすぐ後悔します。だって総司くんの一番の望みは「一緒にいきたい。一緒に連れていってくれ」ですもの。総司の笑顔が崩れ、涙が溢れます。「俺が泣かせた・・・」一は胸をつかれます。でも、彼には総司くんに何もしてやれないのです・・・。ううう。泣けます。この章を読む時にはハンカチをご用意ください。
斉藤一は、土方歳三様が好きで好きで。そんな気持ちを総司くんはよくわかっていて。だから、悔しい気持ちも、悲しい気持ちもあったろうけど、一くんが歳三様の後をどこまでも追っておこうとしているのを励ます気持ちになれたのでしょう。
総司くんの一くんへのセリフが切ない。
これまでの新選組本とまったく別アプローチで、新選組メンバーの気持ちに迫ったこの本。しかし、私には一つだけ不満が・・・。沖田総司くんと、土方歳三様との交流場面が断然少ない。ほとんどない。それが不満です・・・。