うさぎの時代庵

時代小説、時代劇の作品感想を書いています。司馬遼太郎、海音寺潮五郎作品が大好き。新選組、幕末物が大好き。

「歳三、往きてまた」 秋山香乃 文芸社

鳥羽伏見以後の土方歳三さまの人生を、様々な登場人物をからませながら最期まで描いた大作。この本、ぶあついです。厚さ10センチくらいあります。秋山さんの力の入れようがわかります・・・。

この本は歳三さまが主人公ですが、その周囲を過ぎていく登場人物たちが魅力的なのです。ちょっとたくさん出て来すぎではないか?という気もするけれど、近藤勇沖田総司斉藤一、のおなじみのメンバーだけではなく。島田魁や野村利三郎や相馬主計や、会津藩の秋月さん、大鳥圭介西郷頼母の娘、市村鉄之助、沢忠助、まだ若い新選組見習隊士たち、などなど・・・。登場してはまもなく命を散らしていく、あるいは表舞台から消えていく人たち。歳三さまの前を過ぎていった人たち。そういう人たちのことを丁寧に描いています。

 

でも、やっぱり、私としては、歳三さま×沖田総司、歳三さま×斉藤一、のからみに心が奪われてしまうのだなあ~。この本の沖田は、きかん坊の見栄っ張り。労咳でやせ衰えて、歳三さまや近藤先生についていくことができず、ただ病に身を一人横たえている。そんな沖田のさみしさがすごく上手に書かれています。沖田が泣き出してしまうシーンがとても印象的。

 

斉藤一はこの本では新選組に派遣された会津藩の間諜として描かれていて、でも、歳三さまのことが大好きで。「旦那」と歳三さまのことを呼び、飄々と歳三さまについていき、でも会津戦争で別離。会津藩士の斉藤は、会津戦争にその身を捧げるしか選択肢がなかった・・・ということになっています。この斉藤一と歳三さまの交流シーンがとってもいいのです。

斎藤が土方歳三さまに自分の本名が山口一であることを明かしたあと、一人つぶやく言葉です。山口は会津藩主のための名前、斉藤一は土方さんのためだけの名前さ、という意味。う~ん。泣かせる・・・。

 

この本は会津戦争のことをすごく丁寧に書いてあるところが、他の新選組モノとちょっと違いますね。会津での歳三さまの戦いぶりを読みたい方には特に、この本オススメです。