うさぎの時代庵

時代小説、時代劇の作品感想を書いています。司馬遼太郎、海音寺潮五郎作品が大好き。新選組、幕末物が大好き。

「恋する新選組 ①~③」越水利江子 角川つばさ文庫

「恋する」という枕詞がちょっと気恥ずかしいですが、この本は、まさに青春純愛時代小説です。少女向けに書かれた本ですが、「花天新選組」と同様、越水さんの少女たちへ向けた大切なメッセージがたくさんこめられていて、大人でも読み応えあります。ぐっと胸に迫るフレーズがたくさんあって、命とは、人を恋するということとは、正義とは・・・と、いろいろなことを考えさせる内容です。

 

主人公は、近藤勇さんの血のつながっていない妹、宮川空。捨て子だったのを、近藤さんの実家、宮川家で拾われ、妹として大切に育てられた、という設定。新選組モノというと、よく男装した女性が入って、そこで恋愛模様が・・・という設定が多いけれど、近藤さんの妹とは、うまい設定だと思いました。こうすると、近藤さんたちについて、京都までいって、新選組で雑用っぽい仕事をしているっていうのが、無理なく納得できる設定。

 

この空ちゃんが、沖田総司が好きで、沖田総司も空ちゃんが好きな感じ。でも、空ちゃんはまだ13歳なので、二人の交流は、恋っていうよりも、恋の卵みたいで、純でもどかしい、やわらかい気持ちの交流です。でも、命の危険が常にあるので、とても切ない。こういう純な気持ちを書かせると、越水さんってすごくうまいですね。沖田総司がホント、さわやかで、でも強くて、女の子だったら好きにならざるを得ないって感じのキャラで描かれていますが、本当にこういう総司くんだったらいいなあ!と思います。

 

ただ、恋して愛して楽しいだけの話ではないのです。新選組の役割や、坂本竜馬岡田以蔵の生き方や、沖田総司の健康の陰りや、けっこう切ない、悲しい場面もあって、泣いてしまうところもあるのです。いろいろ悩みながらも、空ちゃんは自分の進む道について思います。

「罪もない町の人が目の前で焼き殺されようとするのに、それは正義か悪かなんて考えるひまはない。見たら、助けるしかない。それが、きっと、人間がやれるぎりぎりのことなんだ。」

と。これは今の時代でもいえることですよね。

 

それに、越水さんはいろいろ時代背景や当時の風俗・習慣をよく調べていて、少女向け作品とは思えないほどです。そういうものがお話の裏にあるので、話がうわすべりしないというか、リアル感があって、感心させられます。

 

越水さんは新選組坂本竜馬を愛しているそうですが、新選組とは何か?何だったのか?という越水さんの考え方が、主に沖田総司と空ちゃんの言葉を借りて語られています。これがけっこう重いのだなあ。それがこの空ちゃんのセリフ。

 

それに、この本の中に登場する女性陣がかっこういい!空ちゃんもがんばっているけど、近藤さんの先生の奥さんとか、土方さんに恋しているおりんさんとか、いなせで、自分なりの考え方を持っている女性たちがたくさん出てきて、う~ん、見習いたい、という感じ。近藤さんの先生の近藤周助さんの奥さんが空ちゃんに言う「女は男より強くなくてはいけないの。それが女の武士道よ。」という言葉は、ずーんと胸に来ます。

 

それに、この本の中でも、土方歳三さまがニヒルな美男として活躍しているのが私的には二重丸。

 

このお話は3巻までで終わっています。池田屋騒動が終わったところ。続きが読みたい気もするけれど、ここで終わるのもいいかもしれない。なぜなら、この後はけっこう悲惨な出来事が起こってくるし、沖田総司結核になっちゃうし、新選組の行く末がつらいものになっていくので、少女向けの本としてはけっこうきついかもしれません。