うさぎの時代庵

時代小説、時代劇の作品感想を書いています。司馬遼太郎、海音寺潮五郎作品が大好き。新選組、幕末物が大好き。

「新選組 幕末の青嵐」木内昇 集英社文庫

「青嵐」とは俳句の初夏の季語。この作品が木内さんの処女作であり、文学賞を取った「茗荷谷の猫」という作品の前に書かれたものです。そして、この本を読んでわかったのは、木内さんが新選組大好きだってことと、沖田総司大好きだってことです。いえ、そう木内さんが書いているわけではないのですが、この本を読むとわかるのです。

 

この本で描かれる新選組は、司馬遼太郎さんの「燃えよ!剣」「新選組血風録」で描いたイメージを色濃く映しています。まあ、司馬さんのあの名作新選組モノのあとに、新選組を描いた作家たちの作品はほとんどその影響を受けたものになっていますけどね。「無邪気で、わけがわからないところがあり、子供っぽいが、剣を持ったら不世出の使い手で、そこにどこか空恐ろしいところがある」という沖田総司のキャラクターを作ったのは自分が初めだと司馬先生はおっしゃっていますからね。私としては、そういう新選組のイメージや、近藤さん・土方さん・沖田さんの黄金トライアングルが大好きなので、この本は大いに満足できました。

 

個性的だと思ったのは、斉藤一のキャラですね。人を斬りたくてしょうがない人として登場。無口でぶっきらぼうで、得体の知れない剣客。でも、実は土方さんを信頼し、信頼した人のやることを信じて最後までついていった。斉藤一についての新解釈みたいなものを、木内さんは創り上げています。

 

この本は時間の経過と共に話が進んでいくのですが、章ごとにそれぞれの登場人物たちが語り手になり、その人の目を通して話が語られ進んでいく、という構成になっていて、これまでの新選組モノにはなかった作りですね。なかなか、面白いですね。それから名セリフが多いです。たいていはその名セリフは沖田総司の口を通して語られます。沖田総司が土方さんに語ったこのセリフ。このあたり、木内さんの沖田総司へのテコ入れが感じられますねえ。

 

新選組ファンの間では有名なエピソードに、肺結核を病んでもう命が残り少なくなった沖田総司が、潜伏していた千駄ヶ谷の植木屋の離れで、黒猫を斬ろうとしたというのがありますが。この話に対して、木内さんが自分の解釈を総司の口を通じて語らせています。私は、子供を可愛がっていたような心優しい沖田総司が、なぜ、猫ちゃんを斬ろうとするなんて残酷なことをするのだ、と疑問に思っていたけど、木内さんの解釈に納得しました。

 

それから、土方歳三さまが沖田総司をどれほど大切にしていたかが、よくわかる箇所がたくさん出てきて、歳さまと総司のゴールデンペアもこよなく愛する私は大満足。

 

文庫本559ページの大作です。読み応え十分です。