うさぎの時代庵

時代小説、時代劇の作品感想を書いています。司馬遼太郎、海音寺潮五郎作品が大好き。新選組、幕末物が大好き。

「人斬り半次郎」池波正太郎 新潮文庫

幕末編と賊将編の2冊です。

幕末に人斬り半次郎と言われた薩摩の中村半次郎。維新後の名前が桐野利秋。半次郎の一生を描いた池波先生の力作です。司馬遼太郎先生が書く半次郎と、全然違うのですよね。池波作品の半次郎は、半分は女性と戯れております(笑)。そして、あとの半分は西郷隆盛を犬っころのように尊敬し、まとわりつくことに費やしています。

 

西南戦争で敗走し、薩摩まで戻ってきて最後の夜を城山で迎えた時、西郷さんに半次郎が心で叫ぶセリフがこれ。

しかし西郷さんは何もかも見透かしたように、「よか、よか。」と半次郎に言うのでした。

 

いかにも池波さんらしい、ふわりとした人間くさい中村半次郎

幸江という故郷の女(この人を半次郎は一番愛したと、この作品の中ではなっています)をはじめとして、まあ、あれやこれら、女性遍歴を重ねていく半次郎(笑)。幕末と維新直後の風雲の中で、もう少し他に考えなきゃいけないことがあるような気もするけど、池波版半次郎は、複雑な政治情勢など考えない。西郷さんに命預けて、好きな女性のことでしょっちゅう悩んでいるのでありました。

 

西南戦争が終わりに近づき、鹿児島の城山にこもった半次郎、もと桐野利秋は、いとこの別府晋介にいうのです。

いかにも、池波版半次郎らしいセリフです。

 

彼が城山で最期の時を迎えたとき、フランス香水をあらかじめふりかけてありました。これは史実らしい。いかにも、桐野利秋らしいエピソードです。桐野の死体を見つけた官軍側の友人が、桐野は進軍ラッパが好きだったと言って、桐野のために兵隊に進軍ラッパをふかせたという話が出てくるのですが、この話を読みながら、涙よりもすがすがしい気持ちで、この本の読み終えることができるのです。これも、池波さん作品ならでは、ですね。

 

鹿児島の西南戦争で亡くなった薩軍側の人達が眠るお墓を訪ねた時、桐野利秋のお墓だけ、白っぽくキラキラした石でできていました。誰がこの石を選んだのでしょうか。あの世で半次郎は、「おいにぴったりじゃ」と喜んでいるのではないでしょうか。