うさぎの時代庵

時代小説、時代劇の作品感想を書いています。司馬遼太郎、海音寺潮五郎作品が大好き。新選組、幕末物が大好き。

「土方歳三散華」広瀬仁紀 小学館文庫

アマゾンプライム岡田准一土方歳三様を演じる映画「燃えよ剣」の配信がスタートして(2022年6月22日現在)、最近土方歳三熱がぶり返している私です。

 

この「土方歳三散華」は土方歳三様の、池田屋事変後から、五稜郭で戦死するまでの生き様を描いたものです。沖田総司池田屋で血を吐いて、自分がどうも労咳らしいと気づきはじめた頃からお話が始まります。だから、はなばなしい新選組の活躍というよりも、新選組に影がさし始めて、だんだんとその影が濃くなっていく過程のお話です。

 

そんな中、歳三様は喧嘩剣法で、時代の流れに逆らい、自分のやり方を貫き、最後は五稜郭にたてこもった主要人物の中で、ただ一人戦死します。土方さんは、近藤さんの刑死を知って、そしておそらく労咳で倒れた沖田総司を思い、決して薩長の軍に降らぬ、降ることなど絶対できない!それでは土方歳三土方歳三ではなくなる!と思っていたに違いないのです。

だから、一本木の関に馬に乗って乗り込んでいくときに、「陸軍奉行並」というその時の役名ではなく、「新選組副長」という名を叫んだのだと思います。日本の有史の中で、これだけカッコイイ死に様を見せたのは、土方歳三様しかいないのではないだろうか。

 

そんな歳三様の気持ちを表したセリフがこれ。

この本は、そんな歳三様の生き様、死に様を、沖田総司との交流をからませながら、描いていきます。

総司くんは、新選組をまとめるために、誰よりも強い戦闘集団にするために、「鬼の副長」になっていく土方歳三様を、心配しつつ、気遣いつつ、それでも歳三様についていきます。

労咳で喀血した後の総司くんですから、あまり総司くんの活躍の場面は出てこないのですが、歳三様へのやさしい心くばりがたくさん出てきて、歳三様と総司くんのコンビはやっぱり絶対的だと思うわけなのです。歳三様のお話なのですが、総司くんと歳三様との強い結びつきを読むお話でもあります。

 

箱館での榎本武揚さんもなかなかいいです。歳三様の気持ちを、榎本さんはよく理解していて、おそらく死が待っていると思った最後の出撃を、榎本さんは止めなかったのです。

これが史実なのかどうかはわかりませんが、おそらく本当の榎本さんもあえて土方さんを止めなかったのではないかと私は思います。

 

とにかく、ひたすら、土方歳三様がかっこいい!しびれる!そういう作品です。