うさぎの時代庵

時代小説、時代劇の作品感想を書いています。司馬遼太郎、海音寺潮五郎作品が大好き。新選組、幕末物が大好き。

「王城の守護者」司馬遼太郎 講談社文庫

いまも松平容保の怨念は東京銀行の金庫に眠っている。

 

東京銀行ということは、今の三菱UFJ銀行ということですね。

 

「王城の守護者」とは幕末、京都守護職にあたった会津藩松平容保のことです。嫌だったけど無理やり幕府の命により、幕末京都の治安維持にあたらされた会津藩。もともと松平家というのは、徳川秀忠の浮気から生まれた藩だったわけですが、徳川宗家に絶対服従という家訓だったから、断り切れなかったのですね・・・。結局幕末の混乱の中で会津藩は貧乏くじをひかされたようなもので。

 

そんな会津藩松平容保の数奇な運命を司馬さんが独特のタッチで小説にしています。容保公はとても寡黙な人で、維新後もほとんど沈黙していたから、どういう思いを抱いていたのか世の中に公にされていないし、明治時代はいろいろいいたくても、勝海舟ならともかく、賊藩とされた会津藩の松平さんとしてはいいたいことがたとえあったとしても沈黙するしかなかったでしょうね。

 

この人が亡くなってから、常時その身につけていた竹筒に、なんと孝明天皇から容保公の忠義に感謝する旨の書簡がでてきたわけです。本当は「自分たちは決して朝廷にはむかう賊軍ではない!!」っていいたかったでしょうね、容保公は。でも、死ぬまで沈黙していました。そして死後も、この大切な書簡が紛失したり、他の人に変に利用されないよう、東京銀行の金庫に預けた、ということです。

 

戊辰戦争時の会津藩の悲しみ、つらさ、うらみ、は白虎隊の悲劇をあげるまでもなく、もう涙ぬきには語れないわけですが。ふつうあんまりヒドイめにあわない藩の一番えらい人である容保公も、心に悲憤を死ぬまで抱えていたということでしょうね。この竹筒を死ぬまで身から離さなかったわけですから。

 

この本には他に幕末で活躍(?)した人々のお話も入っています。大村益次郎や、岡田以蔵など。でも圧巻はこの冒頭の「王城の守護者」です。

 

会津といえば今の福島県東日本大震災原発の影響で大変な被害に苦しみ、その苦しみは2011年から10年以上たった今でも悲しいことに続いています。でも、きっと、昔会津藩といわれた時代にその悲劇と苦しみを乗り越えてきたように、今度もきっと福島の人達がこの震災を過去のものとする日がくることを信じたいし、心からそう願います。