これは、歴史SFともいうべきジャンルですかね。
主人公の桃井初音さんは、古い物に触ると、その過去へ意識が飛んでしまうという、意識だけタイムトラベラーのような能力があります。彼女が新選組ゆかりの古い備忘録に触れて、幕末の池田屋に意識が飛び、松次郎という隊士(隊士というよりも見習いのような立場ですが)に憑依して、沖田総司や土方歳三に会うというストーリー。
池田屋、千駄ヶ谷での沖田総司の病床、箱館と、数回、初音は過去へ飛びます。そこで、沖田総司の死に様や、五稜郭での土方歳三の様子を、松次郎を通して、じかに見ることになるのです。そこに初音自身の出生の秘密も絡んできて・・・。
私は、一巻目を読んでいないので(新選組目当てで、二巻だけ読みました)、初音の秘密についての詳細はわからいないのですが、初音は、時空を超えて存在する「何か」の娘らしいのです。でも、まあ、そういうことを横に置いておいても、新選組ファンならけっこう楽しめますよ。
新選組ファンなら一度は思ったことがあるでしょう、幕末にタイムスリップして、沖田総司くんや土方歳三さまに会いたい!と。そういう願いを、初音が実現してくれるわけで、読者はそれを追体験できて楽しいのです。私たちが、もし幕末にタイムスリップしたら、こうなるんだろうなあ、と。それに、初音の存在が、幕末と現代をつなぐ役割をしていて、本格的な歴史小説にはない楽しみがありますね。
全体的にコミカルな本なので、それほど深刻な場面はないけれど。沖田総司の最期のシーンはけっこう泣けます。千駄ヶ谷の隠れ住まいで沖田総司は猫を撫でながらつぶやきます。
そして土方歳三様が箱館でどうなったか・・・。それを書いてしまうと、ものすごいネタバレになってしまうのでここでは伏せますが。「えっ!?」という展開になります。なぜ、土方歳三様の遺体はみつからないのか???に対する、この本ならではの答えが書かれています。まあ、ああいうエンディングを用意するあたり、歴史SF小説の自由さでしょうか。