うさぎの時代庵

時代小説、時代劇の作品感想を書いています。司馬遼太郎、海音寺潮五郎作品が大好き。新選組、幕末物が大好き。

「天まであがれ!」木原敏江 秋田文庫

号泣新選組漫画。何回読み返しても、ラストで号泣。もう泣けて、泣けて・・・。

1975年、週間マーガレットに連載された作品なので、かなり昔の作品です。名匠木原敏江先生の入魂の作品。でも、連載は7ヶ月で打ち切りになり、木原先生はかなり悔しかったよう。今だったら、3年でも5年でも続けられましたよ(←渡辺多恵子さんの「風光る」を見よ!)

ちょっと時代が早すぎた、あるいは週間マーガレットの読者にはちょっと重すぎたかなあ?!木原先生自身が、新選組大好きってこともあって、気魄を感じるストーリー展開です。

 

でも少女向けですから、そりゃやっぱり乙女チックな恋愛要素も満載です。一応主人公は沖田総司です。剣の天才で、でも天真爛漫で、結核になって倒れる(ああ、なんか、沖田くんってこの3ワードで語れちゃいますねえ・・・)、歴史どおり、巷の期待通り、の描かれ方。

ここに、こより(実は由緒正しき公家の家の頼子姫)というかわいいガールフレンドがからんで、少女マンガ的にやきもき、盛り上がるのです。しかし!!新選組ですから、その先にハッピーエンドがあるわけもなく・・・。沖田くんとこよりちゃんの最後が号泣です・・・、沖田姉のおミツさんの心くばりが・・。あ~泣ける~。

 

そして、この漫画では、歳三様&沖田総司のいちゃいちゃぶりもたっぷり描かれていて(決してBL的なハナシではありません)、楽しめます~。歳三さまが、千駄ヶ谷で療養する沖田くんに最後の別れをするシーンは、もう!号泣×2倍。このシーンでの歳三様のセリフがこちら。

初めは笑顔で歳三さまを見送ろうとした沖田くんも、たまらず、やせ衰えた体で刀をひきずるようにして、「追いていっちゃいやだ!」と歳三様の背中にすがるのです。あ~、泣ける・・・。この、歳三さまと沖田くんの別れのシーンは、古今東西、テレビ、漫画、小説のオールジャンルの中で、ベスト2だと思います。(ベスト1は、テレビドラマ「新選組血風録」の別れのシーンです)

 

木原先生の描く歳三さまの格好いいこと、美しいこと。ホレボレします。そして、歳三さまにも、ちょっとロマンスが。会津藩のお姫様、容姫が、歳三さまにぞっこんほれ込むのです。この容姫さまは、実は会津藩のお姫様といっても複雑な生まれの方。しかし、容姫様の歳三さまへの気持ちは、浮ついたものではなかったのです。彼女は男装して、函館まで歳三さまについていきます。

 

「最期まで一緒に・・・」そう思い定めた容姫はもう歳三様のそばから一歩も離れません。歳三もそんな容姫を傍においていたのです。

ここらへんから、涙が再び、じわわ・・・。容姫さまに自分も思いっきり感情移入!しかし、歳三様は、容姫を最期の戦いの前に、函館から逃すので、斉藤一に頼んで・・・。「元気で生きろ」と。「今度生まれ変わったら、必ず容殿を妻にもらう」と。その歳三さまの言葉を支えに、容姫さまは、明治のその後を生きていくのです・・・。もう、ここらへんから、歳三さまが戦死するまでの間は、泣きっぱなし。

 

ここまで感動させて、読者を泣かせるのは、木原先生の気持ちがこもっているからだと思います。木原先生も描きながら自分でも泣いていたんじゃなかろうか。

新選組ファンに絶対オススメ漫画です。

 

ところで・・・。木原先生のこの漫画への並々ならぬ思い入れは、大分後の代表作「摩利と新吾」で表れます。「忍ぶれど」というエピソードに、年取った容姫さまが出てくるのです!そして容姫さまの「貫けば誠になるのです」的発言に、摩利は自分の気持ち(新吾ちゃんへの)をはっきりと認めるのです。そして容姫様が死を迎えたとき、歳三様があの世から迎えに来たのです。歳三様を、摩利と新吾は目撃・・・。木原先生は、このエピソードの中でご自分の宿願を果たされたのではないでしょうか。