うさぎの時代庵

時代小説、時代劇の作品感想を書いています。司馬遼太郎、海音寺潮五郎作品が大好き。新選組、幕末物が大好き。

「執念の系譜」永井路子 講談社文庫

鎌倉政権の重鎮、三浦一族の密かな政争を、三浦義村、光村親子の二代に渡って描いた中編小説。鎌倉幕府初期の政争を、三浦一族の側から描いたという意味でとても面白いです。「鎌倉殿の13人」の三浦義村の暗躍、葛藤、権謀術数をこの作品で堪能できます。

 

クライマックスは源実朝の暗殺です。殺したのは公暁源頼家の息子ですが、公暁を駆り立てた人物は、公暁の乳母父であった三浦一族。しかし、三浦一族は、実朝暗殺事件で誅せられていません。すんでのところで三浦義村公暁を捨て、北条一族に味方し、家を存続させました。

三浦義村の息子、三浦光村は公暁に味方しようとしたのに父に止められ・・・。

その時から、光村の屈折した思いは最後まで続いていきます。

三浦義村は、北条義時と手を組んで鎌倉幕府を盛り上げながらも、常に北条義時を倒し、北条一族を追いやり三浦一族が鎌倉幕府の中心、執権の地位に就くことを狙っていた・・・。その執念が三浦一族を動かしていたのです。

北条義時が死んだ時、三浦義村は兵をあげ、北条一族を倒し、自分が実権を握ろうと一世一代の勝負出ます。

 

しかし・・・ここに北条政子三浦義村に会いに来て・・・

この一件は、北条義時の愛妾の伊賀の局の一族、伊賀の乱として処理され、三浦義村は伊賀一族を成敗する側になったのです。

政子と義村の間に何が話し合われたか・・・。

 

その後、三浦義村に北条一族を倒すチャンスは二度とめぐってこず、腑抜けのようになってしまいました。

北条義時三浦義村は、互いに刀を背中に隠しながら密かな権力闘争を続け、しかし、鎌倉幕府を強化するという一点では協力し、互いに尊敬しながらも命の奪い合いをしていた・・・。

鎌倉幕府初期の本当の主役は源氏ではなく、北条義時三浦義村であったと思うわけです。

 

三浦義村の思いを継いだのは、次男坊の光村で、彼の打倒北条一族の執念は最後までずっと続きます。北条一族と三浦一族との暗闘は、代を変えて続いていくのです。

そして三浦の反乱、宝治の乱で、三浦一族は遂に北条一族に滅ぼされてしまいますが、北条一族と一戦を交わしたという意味で、光村は自分の死にざまに満足していたのでした。ものすごい闘いと死にざまを後世に残して。三浦一族は皆戦死か自害。ここで三浦一族は滅びる・・・この小説は終わると思ったら。

ここで終わらないのが、この作品の面白いところです。

三浦光村の甥にあたる佐原一族が生きていて。その後三浦の名を継ぎました。そして新田義貞が北条高塒を責めた時に三浦一族は新田側に味方して、ついに、北条一族を滅ぼしたのでした。その時の三浦は三浦時継が率いていました。

北条一族をついに倒したぞ!で終わるかと思ったら。

またまた、ここで終わらないのですよねえ・・

三浦時継は、北条氏の残党の反撃、中先代の乱に味方してしまうのです。これに敗れて足利尊氏に誅されてしまいます。

でも三浦時継の息子、三浦高継は父を裏切って足利側に味方をして、生き残ります。

そして戦国時代に入り、三浦一族は北条早雲(北条一族とは関係ない)と闘うことになり、油壷にこもり籠城して闘い、一族皆が果てることになりました。

鎌倉の北条一族ではないが北条の名をかたった北条早雲によって、三浦一族は遂に滅びてしまったのです。なんともはや・・・。

三浦一族の執念はまだ三浦半島に燃え残り、くすぶっているような気がします。

三浦一族の物語は、まさに執念の物語。

読み応えのある作品でした。