「のぼうの城」「忍びの国」を書いた和田竜さんの四作目。織田信長が毛利を攻めている戦国時代。信長の本願寺攻めの影で、毛利家と信長の駆け引きと、毛利家についた村上海賊の娘、景の活躍ぶりを描いたお話です。
いやはや、景が、とんでもないキャラの持ち主で。時代劇のヒロインといえば、忍者か大名のお姫様か武士の娘か妻。しかしそんなお決まりパターンを完全に脱した景が大変魅力的です。
景は、能島村上家の娘。そして、この時代ではすごく醜いといわれる容貌。海賊といっても能島村上家は、地方豪族というか小大名みたいなもので。その娘の景は、一応姫と呼ばれる立場なのですが。その醜い容貌と、海賊働きをするおてんばで、嫁の貰い手がないのです。しかも本人が海賊の家ではないと嫁ぎたくないと言い張る始末。しかも自分の容貌は棚にあげて、面食い。いやはや、キャラがたってます(笑)。
そんな景がひょんなことから本願寺門徒と関わりを持ち、泉州まで行き、信長の命を受けて本願寺攻めをする泉州侍と戦うことになり。やがて、本願寺に、というか自分がかかわった留吉たちのために、泉州侍と景は対立し、泉州侍たちと血みどろの戦いを繰り広げるのです。
いやー。強烈な景のキャラにより、新鮮な味わいの時代小説になっています。和田さんらしい、伝統的な時代小説作家には絶対書けない内容ですね、素直に面白かったです。
景のキャラを象徴しているセリフがこちら。
※オレとはこの本のヒロイン、景のことです。
ただ、幾つか不満もありました。
上下巻なのですが、上巻がもたつき感があり、どうも読みにくく。和田さんの本にしては初めてですが、ページが思うように進まない。対照的に下巻は、ががーっと読んでしまいます。戦闘シーンが中心だからです。ハイテンポで進む。だからこそ、上巻のもたつき感が惜しく感じられました。
それから景が、本願寺門徒に肩入れする理由が今一つ説得力がないと思いました。
それと、海戦シーンが中心なのですが、私が船に詳しくないので、どうもよくわからないのです。船のどこの部分の話なのか、どういう風に海戦が展開しているのか。でも、わからなかったけれど、海戦シーンは、面白く、景のハチャメチャな戦いぶりはすごいです。
景という強烈キャラの勝利ですね、この本は。
さきほど、醜い容貌と書きましたが、実はこれには仕掛けがあって、景は現代風にいえば、すっごい美人なのです。スタイルよくて、鼻筋通っていて、目がぱっちりで。でも、その時代では醜いといわれていた。しかし、西洋人に接する機会が多い泉州では、現代と同じように、景はすごい別嬪さんだとみなされたのです。
ここらへんの逆説的トリックが面白かったですね。
果たして、景は、ハンサムな海賊の家へ嫁入りできたのでしょうか?
泉州侍たちに、景は勝ったのでしょうか?
景の、破天荒な活躍ぶりをご堪能ください。