柴田さんは痛快でちょっとニヒルな時代小説を書かれますね。けっこうエログロナンセンスみたいなシーンも描くけれど、女性への永遠の憧れみたいなものを隠しつつ、という感じがいいです。
歴史の王道を歩く人物ではなく、クールに時代に背を向けて生きる主人公を多く描いています。眠狂四郎はその典型。
この短編集も、ちょっと時代の主流から外れた人たちを描いた物語で、テーマを幕末にとっております。等々呂木神仙なるおじいさんが語る幕末史の秘話という形を取っているのですが、そこはやっぱりシバレンなので、けっこうエロっぽい話もちらほら(笑)。でも、最後には感動の涙が出てきます。私もこの本を読んで何回も泣きました。
「会津白虎隊」「水戸天狗党」「異変桜田門」「上野彰義隊」「大和天誅組」など、様々な短編が10編含まれていますが、私の一番のオススメは二つ。「純情薩摩隼人」と「函館五稜郭」です。
「函館五稜郭」は榎本武揚にまつわるエピソードなのですが。このお話のハイライトは最後の最後。主人公の佐々木十次郎が榎本へ語るセリフ4行が、もう。感動の嵐。「榎本閣下、私が、こうして、お待ちしていたわけがおわかりになりませんか。・・・」この後、佐々木は次の時代を託すに足ると思った榎本に重大な秘密を告白するのです・・・。
そして「純情薩摩隼人」は中村半次郎=桐野利秋を描いたもの。桐野利秋ファンの私としましては、そりゃあシバレン版半次郎のこのお話を十分楽しませていただきました。
でもこれは桐野と西郷どんとか、桐野の最後とか、西南戦争とか、そういうお話ではないのです。桐野が半次郎と呼ばれていた時代、生涯の伴侶と定めた愛しい女性がいました。しかし彼女は若くして死んでしまいました。それから半次郎どんの女性遍歴が始まりますが、女達にはやさしかったが、決して心底愛しはしなかったのです。彼の心の中に住んでいた女性はただ一人・・・という、桐野利秋の愛の物語なのです。
史実とは違うだろうけど、こうであったら素適だなあというお話。ここらへんが柴田さんのロマンチストらしさが出ているところだと思います。
実際、桐野さんは女性にもててもててしょうがなかったらしい。外見も格好よかったし、立ち居振る舞いが颯爽としていて、桐野さんが来ると、他の座敷の芸者たちまで集まってきちゃったらしい。
西郷隆盛さんが桐野さんが女にもてまくる、女と遊びすぎる、という同僚の批判に対して語った言葉がこれ。(小説の中で、ですが。事実でもそんな感じだったのではないだろうか。)
そんな桐野さんの一生を、一人の女性への愛という視点から描いたお話。この短編集の最後を飾りますが、それにふさわしい美しいお話です。