うさぎの時代庵

時代小説、時代劇の作品感想を書いています。司馬遼太郎、海音寺潮五郎作品が大好き。新選組、幕末物が大好き。

子母澤寛「新選組三部作」中公文庫

子母澤寛さんといえば新選組ブームの火付け役であり、司馬遼太郎さんが新選組モノを書く材料をたくさん提供した方です。この人の著作がなければ、私たちが今新選組に持っているイメージは大分変わったものになっていただろうと思います。

京都壬生の八木家の源三郎さんという、実際に新選組メンバーを見知っていた人が存命なうちに、貴重な聞き書きをたくさん残してくれたわけです。子母澤さんは元新聞記者だけあって、豊富な取材をもとに、新選組三部作を世に出してくれたのでした。

三部作とは「新選組始末記」「新選組遺聞」「新選組物語」。いろいろな隊士の姿が生き生きと描きだされています。

面白いのは、子母澤さんの本では、新選組はあくまでも近藤勇がメインで、土方歳三さまは完全に脇役。ときどき出てきますけど、中心は近藤さんなんですよね。土方歳三のほうにスポットをあてたのは、司馬遼太郎さんが初めてだったと思います。始末記はノンフィクションっぽいけど、物語のほうになると大分フィクションも入ってきます。また、子母澤さんの小説も入っています。

 

子母澤さんの取材に基づくこの本のおかげで、私たちは、沖田総司がのっぽでよく冗談ばかりいう明るい青年だったことや、土方さんが苦みばしったハンサムだったことや、斉藤一が左効きだったことや(これには異説ありますが)、池田屋事変の様子や、芹沢鴨の暗殺の様子が、わかるわけです。子母澤さんに感謝です。

子母澤さんが沖田総司の剣について書いている文章があって、それが私は大好きです。沖田総司という人の人生を象徴しているように思えます。

 

 

私の一番のオススメは「新選組遺聞」の中の「沖田総司房良」。沖田総司の剣の使い方や、冗談ばかりいう様子や、労咳に倒れた後の様子や、お姉さんのおみつさんが美人で弟思いだったことや、総司の最期の様子が書かれています。

特に、甲州へ旅立つ近藤さんが総司と別れを告げるシーン(これが二人にとって今生の別れとなります。2月28日のできごとで、その年の4月25日に近藤さんは刑死してしまうのです)が、切ない・・・。「この夜は沖田も声を出して泣いた。」とあって、ああ。総司くん、悲しかったのねと、この一節を読むたびに涙が出てきます。